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『倉吉八犬伝』ショートショート

エグ芋伝説 篇

登場人物:犬飼信戯/犬村礼采

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<犬飼信戯視点>

 いつも八犬士のみんなと一緒にいるから、たまにはひとりでのんびしたーい! どうせなら趣味の渓流釣りも楽しみたい!

そう思って、前に一度来た関金の温泉へ訪れた。

 朝から夕方までがっつり釣りを楽しみ、美味しい空気も堪能して、大満足!

「さーてと。後は関金温泉にゆっくり入って~……あれ?」

 そばにある温泉施設には目もくれず、川べりを歩くメガネの男は……。

「礼采くんだ~!」

「ん? ……は? なんで信戯がここにいるんだ?」

 メガネの奥の瞳を丸くしながら、礼采くんはボクを指さした。

「それはこっちが言いたいな~。なんで礼采くんが関金にいるのぉ~? あ! もしかして礼采くんも渓流釣りに……」

「それは信戯だろう。僕はこれの調査にきたんだ」

 礼采くんはメガネを押し上げ、持っていた本をボクの方へ突きつけた。そこには文字がたくさん書いてある。

礼采くんは昔からいろんな知識を吸収しようと、よく書物を読んでいた。それは400年後にきちゃった今も変わらない。『としょかん』ってところへ行って、今でもあれこれ読んでいる。よくこんな字がいっぱいの読めるなーって感心しちゃうけど、礼采くんがそうやって知識を得てくれるおかげで、ボクたちもこの時代のことを知れて助かる部分はあるけどね。

だから、ボクはこういうのぜーんぜん読んだ事ないんだけど~……。

「エグ芋伝説ぅ?」

 そこに書かれた内容も、やっぱりぜーんぜん知らない! だけど礼采くんは優しいから、ちゃんと教えてくれる。

「ここ倉吉には古くからの言い伝えがたくさんあってな。最近はそういった関連書物を読んでいるんだ」

 礼采くんはメガネを押し上げながら、口角を上げて笑みを浮かべた。

「今から1200年以上前、とある老婆が、関金宿の川で芋を洗っていると、腹を空かせた旅の僧が「その芋をひとつわけてくれないか」と声をかけたんだ。けどその老婆は欲張りでな、「この芋は『エグ芋』といって、口がいがむほどえぐいからあげられん」と断った」

「わかった! それでも旅の僧がエグ芋を食べたらお腹の中から木が生えてきて、えぐかったはずの芋が全部美味しく……」

「違う。というか、相変わらず息をするようにデタラメを言うな」

 ため息をついて、礼采くんは「続きがあるから静かにしろ」と怒っちゃった。

「旅の僧は「それなら仕方ない」と言って笑みを残し、その場を立ち去った。けどその笑みに怒った老婆は、「何がおかしいんだ、乞食坊主め! こんなうまい芋食わせてたまるか」そう言って、当てつけみたいにその芋をかじると……いつもは美味しかったはずなのに、本当に舌が曲がるほどえぐかったんだ」

 予想外の展開に思わず「おお!」と声を上げてしまう。それが嬉しかったみたいで、礼采くんは更に楽しそうな顔で喋り続ける。

「そんなはずはないと、老婆は他の芋も口にしてみた。だがどの芋もすべてえぐい。老婆は気味が悪くなって、その芋を全部川へ投げ捨ててしまったんだ。それ以降、その芋は川に自生するようになった、という事だ」 

 話が終わると、ボクは思わず前のめりになって礼采くんの肩を掴んでいた。

「つまり、デタラメが本当になったって事!?」

「ああ、そういう事だな。だから僕はそんな事が本当に起こるのか、自生しているという芋も見てみたくなったんだ」

「えぇ~! 何それ、面白そう~! ボクも一緒に行くー!」

 普段デタラメばかり言っているボクにとって、そんな面白い展開に食いつかないはずがない。礼采くんはボクがついていく事に若干嫌そうな顔をしたけれど、問題なし! 強引に引っ張って目的の場所に向かった。

「この辺りの川が、エグ芋伝説で描かれている場所だそうなんだが……」

 川を覗いてみると、そこには蓮の葉に似た葉が生えていた。

「あれじゃないかなぁ?」

「よし、取ってこよう」

「え、まさか……食べるの?」

「実際口にしてみないと、えぐいかどうかわからないだろ?」

 知識欲深すぎじゃない?

 心の中で突っ込むけど、口には出さない。だってせっかくの挑戦を、台無しにしたくないからね☆

 礼采くんはひとりで川の中に入ると、葉っぱを掴んで引っ張った。

「ふむ、これがエグ芋……見た目は里芋だな」

 大きさや形状も調査対象みたいで、いろんな角度から眺めては何やら呟いている。本当にえぐいのか、実は美味しいのか。気になっちゃって、ボクの心の臓が跳ねちゃう。一体どうなっちゃうの!?

「ちょいと。そこのお兄さんたち」

 背後から声をかけられ、驚いて振り返る。すると、そこにはまるでさっきの物語から抜け出たみたいな老婆が立っていた。

 まさか物語が現実に!?

 ボクの心の臓が更に跳ね上がって、血圧上昇!

「そこに自生してるのは、エグ芋って言ってねえ。昔、弘法大師様が意地悪な老婆にお仕置きしようと、術をかけて以降えぐくなってしまって、食べられたもんじゃないんだよ。食べるならこっちにしなさい」

 あれ~? むしろ芋をもらっちゃった。

 って言っても老婆がくれたのはエグ芋とは形が違う、サツマイモだ。

「さっき家で蒸したばかりだから、アツアツよ」

 エグ芋を食べられなかったのが残念だったみたいで、礼采くんはしょげた様子で川から戻ってきた。でもせっかくの好意だから、と、もらったサツマイモを食べる。

「ん! 確かに美味いな」

「ほっこりしてて、甘くて……美味しいねぇ~。やっぱり食べながら、えぐいのより美味しい方がいいに決まってるよ」

「まあ、それもそうだな。腹が減っていたから、お腹に溜まって丁度いい」

「ボクも、ご飯食べずに渓流釣りしてたから、ありがたいな~」

 美味しいサツマイモも舌鼓を打ち、老婆にお礼を言ってからボクたちは元来た道を歩き出した。

「もう帰るの~?」

「いいや。先程の老婆の話を聞いただろう。あのエグ芋伝説は、地元の人も知っている……つまり、本当の話だったんだ。なら、続きも本当かもしれない!」

「エグ芋伝説に、続きなんてあったんだぁ」

「ああ! これは面白くなってきた……よし! 次に向かうぞ」

 意気揚々と歩く礼采くん。だけど、ボクは朝から渓流釣りでずーっと立ってたからもう歩くのめんどくさいんだよねぇ~。それに、そろそろ温泉に入りたい気分。

「今日はもういいんじゃない?」

「なら信戯は帰ればいいだろう。僕はこの目で弘法大師の起こした奇跡の場所を見るまでは……」

「はぁ~礼采くんは真面目だな~。っていうか、話に出てきた僧って、弘法大師の事だったんだねぇ」

 近くに落ちていた枯れ枝を拾い、軽く振り回して……。

「ボクは飽きちゃった~」

 それを、川へ放り投げた。

 次の瞬間――。

「へぇ?」

「は?」

 枯れ枝が落ちた場所から、勢いよく水柱が上がった。

「え~? 何これぇ!」

「こ、これはつまり掘削により地下に流れる温泉や水が湧き出た時に起こるもので……」

「誰も掘ったりしてないよ~」

「だ、だだだだからこれは……!」

 奇跡!

 って思ったけど、水柱はもう消えてなくなっていた。

 それこそ、幻だったみたいに、跡形もない。

「どういう事だ?」

よく見ると、水柱が上がったところから湯気が出てた。

「あ~! ここ、ボクが行きたかった関金温泉だ~」

「枯れ枝を投げたら温泉が……はっ! 伝説そのままじゃないか! やはり弘法大師の術は本物で、あの本の内容も……」

「はいはい、もうそれはいいからさ~……温泉、入ろうよ」

「いや、僕はもっと調査を……」

「それはまた今度ね~。疲れた身体を、温泉で癒そ~☆」

 まだ調べようとする礼采くんの手を掴むと、ボクは強引に引っ張りながら、関金温泉へと向かうのだった。

◆END

著:浅生柚子(有限会社エルスウェア)

「エグ芋伝説」